大判例

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大分地方裁判所 昭和57年(ワ)887号 判決

原告 モーラン・アリョーシャ (MOERAN ALYOSHA)(昭和四四年六月二日生)

右法定代理人親権者父 モーラン・ブライアン (MOERAN BRIAN)

同母 モーラン・京子(MOERAN KYOKO)

右訴訟代理人弁護士 藤井克已

同 吉村敏幸

被告 日田市

右代表者市長 石松安次

右訴訟代理人弁護士 梅木哲

同 梅木實

主文

1  被告は原告に対し、金三三二四万三一六二円及びこれに対する昭和五六年六月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、これを二分し、それぞれを各自の負担とする。

4  この判決は第1項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金八一八九万九〇〇〇円及びこれに対する昭和五六年六月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

被告は、日田市立北小野小学校(以下「北小野小学校」という。)を設置管理するものであり、原告は後記本件事故当時、同校に六年生として就学していたものである。

2  本件事故

北小野小学校の教師訴外穴井久満(以下「穴井」という。)は、昭和五六年六月一日午後四時二〇分ころ、同校の専用プール(以下「本件プール」という。)において、同校の五、六年生を対象として水泳指導を行い、原告もそれに参加して、プールサイドから逆飛び込みをしたところ、プールの底部に頭を打ちつけ、その結果、環軸椎脱臼、第二頸椎前方亜脱臼、第三、四頸椎圧迫骨折の傷害を負った。

3  被告の責任

(一) 国家賠償法一条(主位的)

原告は、北小野小学校に入学し、同校の教師の指導のもとで教育を受けているのであるから、被告は同校を設置管理するものとして、教育基本法、学校教育法に基づき原告の安全を保護すべき義務を負っているにもかかわらず、以下の過失により、原告に傷害を負わせた。

(1) 穴井は、本件プールが満水時において、最浅部で〇・八メートル、最深部で〇・九五メートルしか水深がなく、飛び込み用のプールとして使用できないにもかかわらず、本件プールを使用して身長一六一センチメートルの原告に逆飛び込みを行わせた過失がある。

(2) 穴井は、原告の身長が一六一センチメートルで、北小野小学校の五、六年生の中では一番背が高く、かつ、本件プールの水深が右のとおり浅いのであるから、少なくとも原告については最深部から飛び込ませるべきであるにもかかわらず、最浅部に近い場所から飛び込ませた過失がある。

(3) 穴井は、本件プールの水深及び飛び込みの潜水力との関連に注目し、逆飛び込み以外の潜水力の弱い方式によって、原告に飛び込みを練習させるべきであったにもかかわらず、原告に逆飛び込みを行わせた過失がある。

(4) 水泳は学校教育活動のなかで危険性が高く、そのなかでも逆飛び込みは最も危険性の高いものであり、かつ、本件プールは右のとおり水深が浅いのであり、そのうえ本件事故当日は、水泳実技の最初の日であったのであるから、水泳の指導者たる穴井は実際に模範演技を生徒に示すべきであったにもかかわらず、これを行わなかった過失がある。

以上のとおり、穴井には指導担当教師として、本件事故に過失があるところ、同人は被告の公務員であるから、国家賠償法一条に基づき、被告は、本件事故による原告の損害を賠償する責任がある。

(二) 国家賠償法二条(選択的)

本件プールは被告が設置管理しているものであるが、前述のとおり、水深の浅いプールであって、身長、体重等の体格が向上した小学校上級生の児童にとって、逆飛び込みを行うプールとして、通常有すべき安全性を欠いた瑕疵のあるプールであるから、右プールに逆飛び込みを行って発生した本件事故について、被告は国家賠償法二条に基づき原告の損害を賠償する責任がある。

(三) 民法七一五条(予備的、選択的)

被告は、穴井の使用者であり、同人が被告の行うべき教育活動の一つである水泳の課外授業を指導した際、前記(一)記載の安全保護義務に反した過失により、本件事故を発生させ、原告に損害を与えたのであるから、被告は民法七一五条により、右損害を賠償する責任がある。

(四) 債務不履行(予備的、選択的)

原告は、北小野小学校に入学する際、被告との間で学校教育を受けることを目的とした在学契約を締結し、被告は原告に教育する義務を負うとともに、その付随的義務として、原告の学校教育において、生命、健康等に危険が生じないようにする義務があるにもかかわらず、被告の履行補助者である穴井は前記(一)記載の過失により、原告を負傷させ、損害を与えたから、被告は債務不履行責任を負担すべきである。

4  不当応訴、偽証による不法行為

被告は本件訴訟において、穴井に過失がないと強弁し、原告の主張を不当に争い、また被告側の証人である穴井は、本件事故の発生原因が原告にあるがごとき虚偽の証言をしており、本件事故後の被告の対応の不誠実さを考慮すれば、被告の本件訴訟に対する対応は不法行為を構成し、被告は原告に対し、本件訴訟を紛糾させた責任を負う義務がある。

5  損害

(一) 入院雑費等      三〇万円

原告は、本件事故による受傷によって、昭和五六年六月一日原整形外科病院で受診後、日田中央病院、成尾整形外科病院と転医し、昭和五七年七月二〇日まで、途中、通学していた期間一一五日間を除いて、三〇〇日間入院及び自宅療養していたから、一日あたり一〇〇〇円として合計三〇万円の雑費を要した。

(二) 付添看護費用    一〇五万円

原告が入院または自宅療養していた右三〇〇日間、原告の両親が、必らず一方は付添っていたから、一日あたり三五〇〇円として合計一〇五万円の費用を要した。

(三) 旅費及び手当損失  二〇〇万円

原告の親権者父モーラン・ブライアンは、昭和五六年九月ロンドン大学の講師となり、昭和五七年四月にはイギリスへ帰国し、同年九月から始まる講義の準備をしなければならなかったところ、同年四月に原告が三度目の手術を控えていたため、家族と共に帰国が不可能となり、ブライアンのみが大学当局に対し帰国延期の事情説明をしなければならなくなり、単身帰国したが、その費用七五万円は本件事故により生じたものである。

また、ブライアンは、昭和五七年三月末まで、ロンドン大学から毎月二五万円を支給されていたが、同年四月から八月まで、右支給を停止され、一二五万円を受領しえなかったが、右支給停止は、本件事故により帰国しえなかったためであって、本件事故によって生じた損害である。

(四) 慰藉料      二〇〇〇万円

原告は、前記二記載の傷害を受け、三度の頸椎骨移植の手術を受けたが、この手術は原告の腸骨と骨盤を切り、そこから採取した骨を環軸と第二ないし第四頸椎が一本の骨柱になるように移植するもので、原告の苦痛は著しいものであるうえ、手術後も、各椎骨間の椎間板と靱帯による衝撃吸収機能を喪失し、容易に椎骨を骨折することが予想され、そのため原告は今後、激しいスポーツを禁止され、また車の乗車中追突、衝突等によって頸椎に危険が生じると容易に死亡又は中枢神経系及び末梢神経系の障害を惹起することになる。

したがって、本件事故による傷害の治療及び後遺障害による精神的苦痛を慰藉するための慰藉料は、少なくとも二〇〇〇万円は下らない。

(五) 逸失利益 四九四〇万九〇〇〇円

原告は、重篤な後遺症を本件事故により蒙り(但し、症状固定時は昭和五七年一二月三一日)、将来就職が困難視されているのであり、労災等級表第五級二号に該当し、労働能力喪失率七九パーセントであり、日本における昭和五七年男子全年齢平均賃金(二四万六一〇〇円×一二か月+八四万二〇〇〇円)にベースアップ分五パーセントを加算し、原告は現在一五歳であるから一八歳から六七歳までのライプニッツ係数一五・六九四八を乗じて計算すると、逸失利益は四九四〇万九〇〇〇円(但し、一〇〇〇円未満切捨)となる。

(24万6100円×12か月+84万2000円)×1.05×79/100×15.6948≒4940万9000円)

(六) 偽証、不当応訴に対する制裁的賠償金            三〇〇万円

被告の応訴態度、被告側証人穴井の偽証の程度からいって、その制裁的賠償金額は三〇〇万円が相当である。

(七) 弁護士費用     七四四万円

本件訴訟は、イギリス法の調査のため外国在住の弁護士、学者に対する謝礼、諸文書の翻訳料、国際電話の使用料等多大な費用を要しており、損害額の一割相当を弁護士費用とするのが相当であり、その額は七四四万円となる。

よって、原告は被告に対し、右損害額から学校安全会より受領した一三〇万円を控除した八一八九万九〇〇〇円及びこれに対する本件事故のあった昭和五六年六月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する答弁

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実中、穴井が原告を含む五、六年生に水泳指導したことは認め、その余は不知。

3(一)  同3(一)のうち、抽象的な義務の存在は認める。(1)の事実中、本件プールの水深は認め、その余の事実は否認する。(2)(3)の各事実は争う。(4)の事実中、穴井が模範演技をしなかった点は認め、その余は否認する。

なお、穴井の指導には、以下のとおり、過失はなかった。

(1) 身長一六〇センチメートル以上の小学校児童は全国に多数おり、かつ、最浅部が〇・八メートル以下のプールが全国に七一一八校以上あるから、穴井が本件事故発生前に自ら本件プールに飛び込んで安全を確認したうえで、学習指導要領、指導書等に則り、原告に逆飛び込みを行わせた点に過失はない。

(2) 本件プールは競泳用プールであり、原告が飛び込んだ地点は、プールサイドより二〇センチメートル以上高い第四コースのスタート台から飛び込んだ地点と同じであり、穴井が原告に飛び込ませた位置について、過失はない。

(3) 逆飛び込みは、文部省の学習指導要領及び指導書によって、小学校五、六年生の課題とされており、通常有すべき安全性を具備した本件プールで逆飛び込みの指導をしても過失はない。

(4) 体育の指導は、検定教科書がなく、教師が指導者講習会、参考書等により知識を得て、創意工夫して行うのであり、穴井は大分県教育委員会主催の水泳講習会に三回参加し、教材研究をした後、本件プールの安全性を確認し、安全でかつ容易な飛び込み方から段階的に、個別的かつ具体的に逆飛び込みを指導した。

また穴井は模範演技を行っていないが、原告の前で、スローモーションカメラのフイルム一駒、一駒の飛び込みフォームを範示して指導し、正しい動作、飛び込む方位、角度、入水後の手の動作等を自ら示しているのである。

以上により、穴井にはその指導方法に過失はなかった。

(二) 請求原因3(二)の事実は否認する。

なお、全国の小学校専用プール一万六三九三箇所中、七一一八箇所のプールは、最浅部が〇・八メートル以下であり、かつ、文部省も水深を最浅部で〇・八メートルが適当と指導しており、この基準に基づき本件プールは設置されており、正しい逆飛び込みをする限り、プールの底に頭部を打ちつけることはなく、水泳指導中の事故で本件事故のようなものは皆無であり、本件プールは通常有すべき安全性を備えている。

(三) 請求原因3(三)(四)の各事実は争う。

なお、前記二請求原因に対する答弁3(一)記載の主張を引用する。

4  同4の事実は否認する。

5  同5(一)ないし(七)の各事実は否認する。

なお、原告主張の損害は、以下のとおり失当である。

(一) 入院雑費

原告が入院した日数は、日田中央病院に昭和五六年六月一日から同月二一日までの二一日間、成尾整形外科病院に同年一二月二六日から昭和五七年四月六日までの一〇二日間の合計一二三日間であり、自宅療養中の雑費は認められないから、一日一〇〇〇円とすれば、一二万三〇〇〇円となる。

(二) 付添看護料

付添看護料は原則として入院期間中にしか認められないから、右入院期間一二三日間に、一日あたり三五〇〇円を乗じた、四二万七〇〇〇円となる。

(三) 旅費及び経費

本件事故と事情説明のための渡航費用及びロンドン大学からの支給停止との間には相当因果関係はない。

(四) 逸失利益

原告は、昭和五七年一二月現在、精神系統の機能又は精神状態になんらの異常も認められず、後遺障害等級は九級とすべきである。

また、昭和五五年賃金センサス第一巻第一表男子全年齢平均賃金によって算定すべきであり、五パーセントの加算をすべきでない。

したがって、原告の逸失利益は一八七二万五一五一円となる。

(五) 弁護士費用

日本弁護士連合会報酬等基準によれば、経済的利益の額が一〇〇〇万円を超え、五〇〇〇万円以下の場合は、五パーセント、五〇〇〇万円を超え一億円以下の場合は四パーセントとするのを原則としている。

三  抗弁

1  相互保証

国家賠償法六条は、相互保証を規定しており、イギリスにおいては判例によって造られた法(コモン・ロー)によって地方自治体に過失責任が負わされているが、以下のとおり、本件事故について、相互保証はない。

(一) 教育監護責任

児童の教育監護は、児童の自主的発達への勇気を殺すべきでなく過保護は禁物である旨判示するイギリスの判例があり、本件事故における原告主張の注意義務違反の程度では、イギリスでは賠償責任は生じない。

(二) 営造物責任

イギリス法によれば、学校側は占有者として、当該営造物での作為あるいは不作為に由来する危険について法定責任を負うが、我が国の国家賠償法二条のように無過失責任を負うことはなく、かつ、右法定責任の範囲は、当該営造物が学校に引き渡された時点において発見し、修理しうべき欠陥に関する責任に限定され、本件プールの瑕疵はこれに該当しない。

2  過失相殺

原告は、小学校六年生で、スポーツ万能であり、特に水泳は得意であったから、飛び込みに伴なう危険を弁識し、危険を回避する行為能力は十分に備えていたのであり、穴井の具体的注意事項、範示したフォームを十分学習しておれば、本件事故は発生しなかった。

3  損害の填補

原告は、昭和五八年一二月日本学校健康会から一三〇万円の廃疾見舞金を受領している。

四  抗弁に対する認否及び主張

1  抗弁1(一)(二)の各事実は否認する。

なお、イギリスにおいては、一九世紀以来、地方自治体が普通法(コモン・ロー)上、使用者として代位責任を負うことになっており、本件事故と同種の事故について過失責任を認めた判例があり、また営造物責任を認める判例も存するのであり、相互保証は以下に詳述するとおり認められるべきである。

(一) 過失責任

学校の教師について、「合理的で注意深い両親」と同じ注意をはらう責任が課されており、我が国と同等又は高度な注意義務違反を過失としてとらえて賠償責任を認めている。

(二) 営造物責任

イギリスにおいても、公の営造物たるプールに瑕疵が存する場合、すなわち当該営造物が本来備えるべき安全性を欠いている場合に、その設置者ないし管理者である公共団体に責任を認めたイギリスの判例(教室の床をすべってけがをした例及び学校の階段が雪におおわれてわからずそこに落ちてけがをした例等)があり、我が国の国家賠償法二条と同等の賠償責任を認めている。

(三) 外国人に対する責任

イギリスにおいては、公的機関が外国人(但し、敵国人を除く。)に対し、不法行為に基づく責任を負う法理が確立しており、我が国はイギリスと現在交戦中ではないから、日本人は敵国人に該当せず、イギリスにおいて、日本人が本件事故にあっても、イギリスの地方自治体は賠償責任を負うことになる。

2  抗弁2の事実は否認する。

3  同3の事実は認める。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  本件事故に至る経緯及び発生

《証拠省略》によれば以下の事実が認められる。

1  当事者

原告の父親は、イギリス国籍を有する人類学及び社会学の研究者で親日家であり、昭和五二年四月から日田市において小鹿田焼と集落の研究を行い、昭和五五年四月イギリスへ帰国したが、同年一一月再び来日し、昭和五六年一〇月一日ロンドン大学のアジア人類学の専任講師となり、昭和五七年三月まで日田市で研究活動を行っていた。

原告は、昭和四四年六月二日生れのイギリス国籍を有する男子で、昭和五二年四月に北小野小学校に入学し、昭和五五年四月に父親と共に帰国したが、同年一一月再び同校に五年生として転入し、昭和五六年四月時点で身長一六一センチメートルあり、日本語は堪能で、他の生徒と全く差がなく教師の指導を理解しえた。

穴井は、昭和五三年四月一日、被告に教職員として採用され、日田市立若宮小学校教諭となり、昭和五六年四月一日北小野小学校へ転勤し、五年生を担任したが、児童数が少ないことから体育の授業については、五、六年生を一緒に指導して授業を行っていた。また同人は、若宮小学校及び北小野小学校において、体育主任を務め、水泳の指導については、指導者講習会を昭和五三年、昭和五五年と二回受講している。

2  本件プールの構造等

被告は、文部省が昭和四一年四月に出した「水泳プールの建設と管理の手びき」に準拠して本件プールの設計を行い、昭和五〇年四月二五日業者との間に建設工事請負契約を締結し、国庫補助を得て同年七月本件プールを建設した。

右手びきによれば文部省は小学校用プールの水深の基準として最浅〇・八メートル、最深一・一メートルと定めたが、被告は本件プールにつき、水深は最浅部で〇・八メートルとしたが最深部は右基準以下の〇・九五メートルの別紙図面記載のとおりの構造とした。

3  本件事故の発生

北小野小学校は、昭和五六年五月二九日(金曜日)本件プールにおいて、プール開きを行い、全児童をプールに入れて泳がせたが、特に水泳指導はなく、体育主任の穴井から全児童に対し、一般的な注意をしたに過ぎなかった。

穴井は、プール開きのあと、本件プールにおいて、同僚の教師らと共にプールサイドから飛び込んで泳いでみた。

穴井は、北小野小学校の五、六年生の水泳技術が十分でないと判断し、同年七月ころ開催予定の日田市の水泳記録会に向けて練習を開始するため、プール開き後の同年六月一日(月曜日)正規の授業終了後、本件プールに同校の五、六年生全員を集めた。

午後三時三〇分ころ、五年生六名、六年生一四名が水着に着替えて本件プールに集合したが、穴井は水着を着用してはいたものの、コンタクトレンズを着眼したままで、自から泳ぐ用意はしていなかった。

穴井は、まず本件プールの揚水ポンプのスイッチを入れて、本件プールが常時満水であるようにしたうえ、生徒達に準備体操をさせ、その後入水させてしばらく自由に泳がせ、次にビート板を使って、プールの長辺を泳がせた。

午後四時近くになり、穴井は逆飛び込みの練習に入ることにして、まずプールサイドで穴井自身が基本フォームを生徒達に示し、両腕で耳をはさみ頭を保護すること、急角度で飛び込まないこと等の注意を与えた。その後先づ第一段階として、生徒達をオーバーフローに座らせ、足を水面下に降ろした姿勢からの飛び込みを数回行わせ、第二段階として、オーバーフローから立て膝で二、三回、一人おきに飛び込ませ、第三段階として、プールサイドから一人ずつ立て膝で飛び込ませ、第四段階として、自信のある者だけにプールサイドまたはオーバーフローから一人ずつ四回中腰で飛び込ませた。

穴井は、右各段階ごとに、プールサイドでそれぞれの飛び込み方を生徒に教示した。

穴井は、第四段階として、「自信のある者はプールサイドから飛び込んでみろ」といって、原告を含む四人の六年生にプールサイドから中腰で逆飛び込みをさせたが、右生徒達が三回ずつ飛び込んだ時には午後四時二〇分になったので、「これが最後だ」と伝えて、原告に別紙図面A点記載の位置からプールに飛び込ませた。

原告は、これで課外授業も終りだと思い、張り切って、プールサイドから飛び込んだところ、入水角度がやや急角度になり、そのためプールの底部に頭を打ち付け、すぐ水面に浮び上がったが、首の後ろを押えて痛みを訴え、穴井の助けを借りて、プールサイドに上がった。

5  負傷状況

原告は、近くの原整形外科病院で診察を受けた後、直ちに日田中央病院へ転医し、二一日間入院した後、昭和五六年七月一六日以降熊本市内の成尾整形外科病院に三回通院して診察をうけ、昭和五六年一二月二六日から入院し、三回の手術を受け、昭和五七年七月二八日退院した。

原告の受傷状況は、環軸椎脱臼、第二頸椎亜脱臼、第三、四頸椎圧迫骨折であり、重篤な症状は顕在化していないが、非常に危険な状態であったため、三回にわたる手術を行った。

以上のとおり認められ、原告本人の供述中右認定に反する部分は信用しえず、その他右認定を覆すに足る証拠はない。

三  国家賠償法一条の責任について

1  穴井が教職についている被告の公務員であること、本件事故が正規の授業時間ではないにしても、教師が指導担当する課外授業の際に発生したものであることは、前記二の認定事実から明らかである。

国家賠償法一条にいう「公権力の行使」は、権力的作用のみに限らず広く解釈されるべきであるから、穴井の原告らに対する水泳指導の教育活動は、「公権力の行使」に当るというべきである。

そこで、穴井の過失の有無について判断する。

(一)  本件プールが、昭和四一年四月に文部省から出された「水泳プールの建設と管理の手びき」に基づき、昭和五〇年に建設されたものでプールの南北両端の最浅部が〇・八メートル、中央部の最深部でも文部省の基準より浅い〇・九五メートルであることは、前記二2の認定事実から明らかである。

ところで、昭和四一年以降、我が国の小学校児童の体位がめざましく向上していることは公知の事実であるが、証人戸山喜八郎の証言によれば、被告は、本件プールの建設に際して、児童の体位の向上が著しいことや、小学校五、六年生の体育授業の課題に水泳の逆飛び込みも指導項目に上っていることについてなんらの配慮もせず、文部省の手引きに従って、本件プールを建設したことが認められる。

そして、本件プールは北小野小学校の専用プールで、小学校児童が体育授業の課題を達成するために使用するプールである以上、水泳に未熟な児童が、右課題とされる逆飛び込みを行うことも当然予定されているのであるが、児童の体位の著しい向上が配慮されず、昭和四一年四月に出された文部省の手引きに従い建設された本件プールは、小学校児童が逆飛び込みを行うプールとしては、その水深が浅いことからして、その安全性に問題があるのではないかとの疑いを否定しえない。

(二)  次に、穴井が逆飛び込みを指導するに先立ち、原告の水泳能力、特に逆飛び込みの技術について、どの程度正しく理解していたかについて考えるに、前記二の認定事実によれば、穴井は昭和五六年四月北小野小学校に赴任し、同年五月二九日に開催されたプール開きの際、初めて原告の泳ぎを見たに過ぎず、それも同校の児童全員を本件プールで泳がせたのであるから、原告の逆飛び込みの技術については、ほとんど判らなかったものと推認される。

また、本件事故のあった、同年六月一日の課外授業においても、それが同年第一回目の水泳の授業で授業開始前において、穴井は原告を含む五、六年生の水泳技術が未熟であると判断していたのであり、また逆飛び込みの練習を開始した後においても、穴井は二〇分弱の時間に、オーバーフローに座って飛び込む第一段階、オーバーフローから立て膝で飛び込む第二段階、プールサイドから、立て膝で飛び込む第三段階を二〇名の児童に行わせており、穴井の指導時間を考慮すると、同人は原告の逆飛び込みの技術を正確に把握できていたとは認められない。

(三)  文部省は、その指導要領で、小学校五、六年生に平泳、クロールと共に逆飛び込みの実技を課したが、水泳は他の体育科目に比較して事故が発生し易く、直接生命に対する危険をも包含しており、殊に逆飛び込みはその蓋然性が高いため、これを指導する教師は一般的に児童の身体の安全に対し充分な配慮をし、事故を未然に防止する高度の注意義務を負っているといわなければならない。

本件プールは、飛び込み技術の未熟な小学校児童が逆飛び込みを行うには、水深が浅く、構造上危険なプールの疑いがあり、右プールを使用して逆飛び込みをさせるのであれば、指導者には特段の注意が必要で飛び込むプールの水深に配慮すると共に、水泳能力の異なる各児童の飛び込み技術を正確に把握し、その水泳能力に応じた具体的で実効ある指導方法によって安全に飛び込めることが確認できるまで、繰り返し、右第一ないし第三段階の安全な方法による飛び込み練習をさせるべきであり、右技術の習得を確認せずに比較的に浅い水深の別紙図面点付近のプールサイドまたはオーバーフローから中腰で逆飛び込みをさせてはならない注意義務がある。

しかるに、穴井は、右注意義務に反し、本件プールの安全性を盲信し、原告の逆飛び込みの技術を十分把握せず、安全に飛び込みができることを確認しないで、形式的に段階的練習をさせただけで、「自信のある者はプールサイドから飛び込んでみろ」と指示し、飛び込みたいと考える原告に最浅部に近い別紙図面点のプールサイドから中腰で逆飛び込みをさせた過失がある。

以上説示したとおり、被告の公務員である穴井は、その職務において、過失により本件事故を発生させたのであるから、被告には国家賠償法一条所定の責任がある。(従って、原告が予備的、選択的に主張している国家賠償法二条、使用者責任及び債務不履行責任については判断する必要がない。)

2  国家賠償法六条について判断する。

被告は、原告がイギリス国籍を有するから、イギリスにおいて相互保証がない限り国家賠償法一条の責任は生ぜず、本件事故における穴井の過失の程度では、イギリスにおいて賠償義務は認められていないから、被告は原告に賠償責任を負わないと主張する。

ところで、相互保証の存在の立証責任について考えるに、国家賠償法は、憲法一七条を受けて規定されたもので、同条項は公務員の不法行為に対し「何人も」賠償請求権を認めており、また憲法前文が国際協調主義を採用する旨唱えていることを考慮すれば、国家賠償法六条は原則的に外国人に対しても賠償請求権を認め、例外的に国または公共団体において本国法では相互保証のないことを主張立証した場合に限り、同法の適用が排除されるものと解される。

右のように解することは、国家賠償法一条が私法である民法七〇九条の特別規定とされていること、不法行為の被害者の救済が容易になることからして合理性がある。

なお、相互保証の有無は、適用すべき外国法の確知の問題ではなく、事実の存否の問題であるから、職権探知事項ではないと解される。

そこで本件についてみるに、《証拠省略》によれば、イギリスにおいては、地方自治体が、その公務員の過失により損害を被った者に賠償責任を負うこと、この責任は、敵国人(イギリスと戦争中の国の国籍を有する者またはその国に自由意思で住居を設け若しくは仕事をしている者)を除いて、いかなる外国人に対しても負うことが、判例により普通法(コモン・ロー)として確立されていることが認められる。

しかし、我が国の国家賠償法一条とイギリスの普通法との間に、賠償責任を生じる過失の程度に相違があるか否かについては、被告においてなんらこれを立証しないから、本件訴訟では右の点の相違はないものとして取り扱う外なく、我が国が現在イギリスと戦争中でないことは公知の事実であるから、イギリスには相互保証が存することになる。

よって、被告の抗弁1は理由がない。

四  損害の算定

1  《証拠省略》によれば、以下の事実が認められる。

(一)  原告は、昭和五六年六月一日受傷後前記のとおり近くの原整形外科病院で受診し、直ちに日田中央病院に転医して、同月二一日まで入院し、その後主治医の紹介により熊本市内の脊椎の専門病院である成尾整形外科病院で同年七月一六日外来診療を受けたところ、コルセット装着をすすめられ、装具で首を固定して小学校には二学期九月から休まず通学しながら九月二八日及び一二月二一日診察治療を受け、経過観察したが、症状は改善されず手術をすすめられた。その結果原告は同年一二月二六日から昭和五七年四月六日まで(但し、昭和五六年一二月二九日から昭和五七年一月三日までは外泊した。)入院し、その間、同年一月八日に第一回の手術を受け、同月二七日に第二回の手術を受けて退院したが、同年五月一八日再び同病院に入院し、同月二八日に三回目の手術を受けて、同年七月二八日退院し、同年一〇月英国に帰国した。

原告の負傷状況は、環軸椎が前方に脱臼し第二頸椎が亜脱臼し、第三、四頸椎が圧迫骨折しているというもので重篤な状態であったが、中枢神経及び末梢神経に損傷はなく身体に麻痺はなかった。

原告の右負傷に対して、まず頸椎の運動を抑制するため、補装具をつけて頸椎を固定し、症状の自然治癒をまったが、昭和五六年一二月の時点で改善のきざしが見られないため、そのまま放置することもできず、昭和五七年一月八日第一回の手術を行い、原告の腸骨(骨盤の一部分)から骨片を採取し、それを第二ないし第四頸椎に移植し、第二ないし第四頸椎を一本の骨柱になるように接合した。同月二七日第二回の手術を行ったが、それは第一回の手術で移植した骨が下方に脱臼したため、もう一度第一回手術と同じ移植をやり直したものである。同年五月二八日第三回の手術を行い、環軸椎の後弓にワイヤーをひっかけ、それを軸椎の棘突起に引き上げて、その上に腸骨から採取した骨片を移植し、環軸椎と第二頸椎が一本の骨柱になるように接合した。

原告は、以上の手術により、腸骨からの骨片の採取に伴う痛みと術後首を動かせない苦痛に苦しんだ。

(二)  原告は、右治療によって、中枢神経及び末梢神経の損傷の危険は一応なくなったが、今後骨の成長が一八、九歳まで続くため、頸椎にそれが影響し、脊椎損傷を惹起する可能性があり、また通常人であれば、頸椎間にある椎間板という軟骨組織等により、外部からの衝撃を緩和できるが、原告の場合、環軸椎から第四頸椎までが一本の骨柱となっているため衝撃を吸収しえず、脊椎損傷をひきおこす可能性が高いため、頸椎に負担のかかる運動及び頸椎に衝撃が加わる可能性のある運動が全く禁止されており、さらに頸椎が一部骨柱化しているため、首の前屈が通常六〇度まで可能であるのに原告の場合は四〇度に制限され、(首の後屈が通常五〇度は原告も可能)、首の回旋(捻転)についても同様に通常左右七〇度可能であるのに、左が三〇度、右が四五度に制限され、首の側屈についても通常左右五〇度可能であるのに左屈二〇度、右屈が三〇度に制限されてしまい、そのうえこの運動機能の改善は手術を行っても不可能とされている。

(三)  原告は、以上の後遺症を負っているため、通常の学校教育を受けることができず、家庭教育または特殊な施設における教育を受けるほかなく、将来の職業についても非常に制限され、脊椎に衝撃のある仕事にはつけない状況であるが、頭脳労働については全く支障がない。

(四)  原告の父モーラン・ブライアンは、昭和五七年三月末イギリスへ帰国予定であったが、原告が同年五月二八日に第三回目の手術を受けることになり、帰国するわけにもいかず、ロンドン大学に帰国延期の事情説明をするため一旦帰国したが、その旅費として七五万円を要し、また同年四月から同年八月までの五か月間、帰国を延期したためロンドン大学から支給されていた一カ月二五万円の手当を受けられなくなった。

以上のとおり認められ、他に右認定に反する証拠はない。

2  右認定事実に基づき、原告の損害について判断する。

(一)  入院雑費       一九万円

原告の受傷の程度及び症状からして、雑費は入院中のものに限り、本件事故との間に相当因果関係にある損害と認められ、原告は一九〇日(但し、入院中、外泊した年末・年始の五日間は除く。)入院し、一日あたり一〇〇〇円の雑費を要したものと推定されるから、合計一九万円が入院雑費としての損害となる。

(二)  付添看護料      五七万円

原告の年齢、その症状からして、入院中に限り、付添看護料は本件事故との間に相当因果関係にある損害と認められ、弁論の全趣旨によれば、原告は両親の付添看護を受けた事実が認められるから、一日あたり三〇〇〇円の付添看護料相当額の損害を蒙ったものとして、入院していた一九〇日を乗じると、合計五七万円が付添看護料としての損害となる。

(三)  旅費及び手当損失

原告の父モーラン・ブライアンは、本件事故による原告の負傷によって、帰国予定の昭和五七年三月末に帰国できなくなり、そのために前記のとおり合計二〇〇万円の旅費の支出及び手当の損失を被ったことが認められるが、右損害は本件事故によって通常生ずる損害とはいえず、特別事情に基づく損害というべきところ、右事情について、被告がこれを予見し又は予見しえたことを認めうる証拠はないから、右損害は本件事故との間に相当因果関係はないものといわざるをえない。

(四)  逸失利益 二〇七八万三一六二円

原告は、現在のところ、中枢神経及び末梢神経に損傷を受けておらず、したがって身体的麻痺はなく、将来、骨の成長又はなんらかの衝撃により脊椎に損傷を生じるおそれはあるものの、その結果、いかなる身体的麻痺または生命の危険が惹起されるかは今直ちに予測しえないから、本件訴訟においては、口頭弁論終結時において症状が固定したものとして労働能力の喪失を判断するしかなく、不幸にして将来なんらかの原因で原告の脊椎に損傷が生じ、重篤な身体的麻痺または生命を失なう事態になった場合には、本件訴訟においてその発生が予見しえなかった後遺症として、その時点で被告に対し別途損害賠償請求しうる余地もあるから、右のように判断することには、合理性もある。

そこで、原告の症状についてみるに、頸部の前屈、回旋、側屈に関し、通常人の半分程度の運動能力しかなく、また頸椎が一部骨柱化しているため、身体的運動能力についても頸椎の損傷の危険を避けるため相当程度に制限されており、軽易な事務職として就労するほかない状況である。

以上の原告の症状を考慮すると、原告は本件事故により、労働能力のうち、少なくとも三五パーセントを喪失したものと認められる。

そこで、口頭弁論終結時にもっとも近い我が国の昭和五八年賃金センサスにより、高校卒業男子の全産業計、全年齢計の平均賃金を基準にして、一八歳から稼働可能な六七歳までのライプニッツ係数一五・六九五を乗じ、さらに右労働能力喪失率三五パーセントを乗ずると、次のとおり二〇七八万三一六二円となる。

(378万3400円(年間所得)×15.695(ライプ系数)×35/100(喪失率)=2078万3162円)

ちなみに、イギリスと我が国との賃金水準について、格差の有無程度を認めるに足る証拠はない。

なお、原告は、昭和五七年の男子全年齢平均賃金(全産業計、全学歴計、全年齢計の平均賃金)にベースアップ分五パーセントを加算して逸失利益を算出すべきであると主張するが、右のとおり大学卒を含めた全学歴計を主張しながら、一方では労働開始時期を一八歳としていること、既に昭和五八年の賃金センサスが公表されており、昭和五七年の賃金センサスを使用するまでもないこと等を考慮すれば、原告の右主張は採用しない。

(五)  慰藉料      一〇〇〇万円

原告は本件事故による受傷により、三回にわたる手術を受けたが、その手術または術後の苦痛は、一二歳の原告には耐え難いものであったと推認され、また今後、頸部の後遺症を負い、脊椎の損傷の危険に苛まれながら著しく運動能力を制限されて生活していくことの苦痛は相像をこえるものがあり、その精神的苦痛を慰藉するためには金一〇〇〇万円の賠償が相当である。

五  過失相殺

被告は、原告に逆飛び込みに伴なう危険を弁識する能力があり、かつ、穴井の指導に従い十分学習すれば、本件事故は生じなかったのであるから、原告には、右の点に過失があると主張する。

しかし、小学校児童は水泳技術、ことに飛び込みの技術について、未熟であるばかりでなく、その理解力も劣っており、六年生だからといって、教師の指導のとおりに、飛び込みを行えと要求することは、無理なことである。

それ故に、小学校教師には、児童の個別的な能力を十分把握して、指導することが要求されるのであって、原告が穴井の指導に基づいた飛び込みができず、本件事故が生じたからといって、その責を原告に帰することは、本末転倒であり、穴井が原告の能力を把握せずに危険な飛び込みをさせた点がまさに問題なのである。

したがって、被告の主張は失当というほかなく、その他本件全証拠によっても、原告が穴井の指示を全く無視して、危険な飛び込みをした等の原告の過失を疑わせる証拠はなく、過失相殺すべき原告の過失はない。

よって、被告の抗弁2の主張は理由がない。

六  損害の填補

抗弁3の事実は、当事者間に争いがなく、原告が日本学校健康会から受領した一三〇万円を右損害から控除すると、原告の損害額は三〇二四万三一六二円となる。

七  不当応訴、偽証による不法行為の成否

なお、原告は、被告が本件訴訟において、穴井の過失の有無を争っていること及び穴井が証人として偽証したことが不法行為になると主張する。

しかし、本件事故の態様を考慮すれば、被告が穴井の過失の存否について争うことが不当抗争になるものとはいえず、また、穴井の証言についても、それが偽証であることを認めるに足る証拠はないのみならず、仮に穴井が偽証したとしても、それがなに故に被告の不法行為を構成することになるのか原告の主張からは不明である。

したがって、原告の右主張は、失当であり、被告に対する制裁的賠償金の請求は棄却を免れない。

八  弁護士費用

原告法定代理人らが本訴の追行を原告訴訟代理人らに委任したことは、弁論の全趣旨から明らかであるところ、本件事案の難易、審理経過、本訴認容額等を考慮すれば、本件事故と相当因果関係を有するものとして、被告に請求しうべき弁護士費用の額は、三〇〇万円が相当である。

九  結論

以上の次第であるから、その余の点を判断するまでもなく、原告の本訴請求は、被告に対し損害賠償として金三三二四万三一六二円及びこれに対する本件事故発生日の昭和五六年六月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三村健治 裁判官 白井博文 西田育代司)

〈以下省略〉

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